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動物のより良い未来に

猫の腎臓病に期待の新薬 ~AIM製剤~ 寿命が30年に?!

猫と腎臓病

猫を飼っている方にとって、腎臓病はとても身近で大きな問題です。

高齢になるとほとんどの猫が腎臓病を患うとされています。

私も4頭の猫を飼ってきて、10歳以上生きてくれていますが、ステージの違いはあれ、みんな慢性腎臓病になっています。

これまで、腎臓病に対しては、進行を遅らせる対処療法しかありませんでした。

ヒトであっても、仕組みは同じで、一度悪くなると、腎臓の機能が回復することはありません

 

AIMの発見

私が「AIM」について知ったのは、今は亡き一番上の子が2018年に腎不全を患ったことがきっかけです。

彼は肥大型心筋症も患っており、約1年の闘病後、恐らく多機能不全で虹の橋を渡りました。

当時は将来的にこんな素晴らしい薬ができるかもしれない、でもこの子にはとても間に合わないだろうなと思ったくらいでした。

あれから、数年が経ち、猫飼いにとっては本当に夢のような薬の実用化がすぐそこまで来ています。

子猫の時から投与すれば、「猫の寿命はいまの倍の30歳くらいになる」と考えることができる、とされています。

この「AIM」というタンパク質を発見・研究されているのは、東京大学宮崎徹先生です。

 

猫が30歳まで生きる日

宮崎先生の著書『猫が30歳まで生きる日』が時事通信社から出版されています。

猫薬としてのAIM製剤の実用化に向けたこれまでの歩みが記されており、非常におもしろいです。細胞の話が好きな人も、そうでない人にも分かりやすく説明されていますので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。

また、印税の一部はネコと人間の腎臓病研究のために使われます。この本を買うことによって、ひとりひとりは僅かかもしれませんが、研究を後押しすることができます。

表紙の写真は岩合光昭さん、帯は養老孟司先生というとっても豪華な一冊です。

この本を読むと、奇跡のような様々な運と、多くの方の協力、努力によって、ここまで来たということが感じられ、感謝しかありません。

ヒトの医者が製薬会社抜きでネコ薬の創薬という無謀とも言える挑戦は、もはや映画やドラマになりそうな、読んでいてとても高揚感があります。

bookpub.jiji.com

 

AIMタンパク質の働き

腎臓は老廃物を含んだ汚れた血液をきれいにする役割があります。腎臓病になるとこの血液中の老廃物を濾すことができなくなり、身体に「ゴミ」が溜まり、体調が悪くなります。

AIMというタンパク質は「ゴミ」にくっつき、AIMを目印にマクロファージ(細菌や死んだ細胞などを食べる免疫細胞)がAIMと一緒にゴミを食べることによって、ゴミをきれいにしていきます。

AIMはヒトやマウス、ネコも持っています。ただ、ネコ科の動物は他のAIMと異なるAIMを持っていることから、うまく作用せず、老化とともに、ほとんどの猫が腎臓病になってしまいます。

AIMはIgM五量体という抗体の上に乗っており(前述の本ではAIMを戦闘機、IgM五量体を空母と例えています)、有事の際(ゴミを発見)、AIMはIgM五量体から離れてゴミ掃除に向かいますが、ネコ型のAIMはIgM五量体から離れにくくなっているため、うまく働いていないということです。

動物園などのチーターの死因は100%腎臓病というのは驚きでした。ネコ科動物がなぜ、このようなAIMを持っているのかはまだ謎なのですが、ネコ科の動物の特徴と言えば瞬発力、中でもチーターは走るのが最も速いわけですから、何かその辺りに関係性があるのかな、などと素人目線では考えたりしてしまいます。

 

AIM製剤の創薬

AIMはタンパク質製剤であり、化学合成の薬とは違い、製造にはとんでもないコストがかかります。

さまざまな紆余曲折の末、なんとか治験に必要な生産と精製の方法を決定する段階まで進みますが、そこで新型コロナウィルスの影響により、一時開発の中断を余儀なくされます。

開発中断のニュースが出た際に、東京大学には多くの寄付が集まりました。

現在はAIM医学研究所の設立に伴い、東京大学の寄付は終了していますが、寄付額は最終的におよそ2億8千万円となったようです。

iamaim.jp

 

AIMの活性化

猫へのAIMの投与は、マウスのAIMを利用しますが、もともと猫もAIMは持っていますので、IgM五量体からAIMが離れやすくなれば、同じような効果が得られます。

このAIMの活性化を促進させる物質がドリアンから見つかっています。AIMを活性化する成分を含んだキャットフードがマルカンから発売されています。

www.mkgr.jp

 

AIMの未来

AIMは体内の様々な「ゴミ」を掃除する機能があるため、ヒトの腎臓病のみならず、認知症脂肪肝や癌などの病気への活用も期待され、大きな可能性を秘めています。

AIMの未来に思いを馳せつつ、朗報を待ちたいと思います。